コントロール状態に基づく長期管理

1.長期管理の必要性と治療目標

喘息は、基本病態として気道炎症が慢性的に存在し、種々の刺激因子の関与により、気道過敏性の亢進や気道リモデリングを来し重症化・難治化すると考えられている。
したがって、治療は炎症抑制を目的に喘息増悪因子の軽減を図るための環境整備と薬物療法を組み合わせた長期的な包括的介入を行う必要がある。医療者と患児・保護者がパートナーシップを確立し、定期的な通院により管理状況の医療的評価を繰り返し喘息に関する認識の共有(患者教育)を図ることで、アドヒアランスが向上し、良好なコントロール状態の維持が期待される。
適切な長期管理を行うことにより、症状のコントロール、呼吸機能の正常化、QOLの改善という治療目標(表6-1)が達成される。また、良好な管理状況が長期に維持されることにより気道炎症が抑制され、最終的には寛解・治癒への期待が高まる。

表6-1 小児気管支喘息の治療目標

2.コントロール状態の評価

長期管理では治療目標の達成度を日常診療の中で評価し治療方針に反映させる必要がある。JPGL2012では比較的短期間(概ね1 か月程度)の喘息症状や睡眠、運動などの日常生活状況、発作治療薬の使用状況からコントロール状態を評価することを勧めている(表6-2)。特に、診療の中で見逃されがちな気道過敏性亢進状態の残存を推測させる軽微な喘息症状の有無の確認を求めているのが特徴である。従来の重症度に代わってコントロール状態を随時評価し、その結果に基づいて治療のステップアップ、ステップダウンを行うこととなる。「喘息重症度」は数か月あるいは数年の経過の中で評価される疾患の重篤度を表し、コントロールレベルは短期間の症状やQOLの障害の程度から評価する治療目標の達成度を表すと考えると理解しやすい。

表6-2 喘息コントロール状態の評価

1)コントロール状態「良好」

喘息が適切にコントロールされた状態であり、長期にこの状態を維持することが肝要である。適切な治療(過剰治療になっている場合があるので注意する)によりこの状態が3 か月以上維持されているようであれば治療のステップダウンを検討する。ただし、乳幼児では喘息の診断を広義に行うため、真の喘息でない患者が含まれる可能性があり、より早期のステップダウンを考慮する。喘息コントロールが良好であると判断するための具体的な条件を表6-3に詳しく示しており、客観的指標であるピークフローや呼吸機能の評価も可能であれば参考にする。

表6-3  喘息コントロールが良好であると判断するための条件

2)コントロール状態「比較的良好」

軽微な症状が時に認められるが、β2刺激薬の頓用により改善する程度で日常生活への支障はほとんど認めない状態である。寛解・治癒を目指すという観点からは未だ満足できる管理が行えているとは言えないので、「比較的良好」の状態が3 か月以上持続しているような場合は治療強化を考慮してもよい。ただし、環境整備や薬物療法が適切に継続されているかどうかを確認し、必要な患者指導を行う。また、合併症やその他の治療効果発現を阻害する因子が存在しないかどうかをチェックする。

3)コントロール状態「不良」

喘息症状のため日常生活に支障を来すことがあり、β2刺激薬の使用が頻回となる。評価項目が1 項目でも該当するようであれば、適切な治療が行われていない状態と判断されるため、ステップアップを考慮する。増悪因子や治療効果を阻害する因子を検索して対策を講じ、治療アドヒアランスの向上を図るための患者指導を実施するとともに、喘息の診断や重症度の判定が正しくない可能性があるので再評価を行う。

3.コントロール状態を評価するための具体的な方法

日常生活の中で患児が経験する喘息症状や服薬状況、QOLの状態を保護者や医療者が正確に把握する必要がある。時間をとり十分な問診を行うことが基本であるが、限られた診療時間の中で必要な情報を確実に取得することは困難を伴う。診察時に簡便に患者の状態を把握する方法として喘息日誌が活用され、最近では簡便な質問票が開発されているので簡単に解説する。また、患者や保護者の主観的判断のみでコントロール状態を十分に把握できない場合があり可能な限り客観的指標としてピークフロー測定を併用し、外来受診時にはフローボリューム測定やβ2刺激薬吸入に対する気道反応性を調べることが有用である(詳細はJPGL2013ハンドブックの第5章参照)。

1)喘息日誌

喘息日誌に、喘息症状(咳嗽、喘鳴、呼吸困難の程度など)と服薬状況を基本として、付随する鼻・目・皮膚症状、体温などの身体症状、日常生活状況、天候などを毎日記入して診察時に持参してもらうことにより短時間で情報収集が可能となる。記入の主体は乳幼児では保護者となるが、小学生になれば徐々に患児自身に主体性を自覚させ、自覚症状だけでなく、ピークフロー測定値も一緒に記入するように指導する。診療場面では記載内容を確認しながら、医療者と患児・保護者間のコミュニケーションツールの1 つとして活用する。毎日の記載の努力が評価され、診療に重要な役割を果たしていることが自覚できれば記載のモチベーションが向上する(図6-1)。

図6-1 喘息・ピークフロー日誌

2)質問票

コントロール状態を把握するツールとして、外来受診時に短時間で記入できる質問票が開発されている。簡便にコントロール状態が把握でき治療に反映できるのが利点である。しかし、コントロール状態の判定がわが国の現在の基準に一致していないので活用に際しては注意を要する。

(1)Childhood Asthma Control test, C-ACT(図6-2

4~11歳の小児を対象とした質問票で、全7問のうち最初の4問を患児が、残り3問を保護者が回答する形式で、27点満点となっており、20点以上はコントロール良好、20点未満はコントロール不良と判定する。また、12歳以上の場合は成人用のACTが使用可能で、この場合は患児自身が回答し、全5問で25点満点となり、20点以上はコントロール良好、20点未満がコントロール不良と判定される。

図6-2 C-ACT質問票

(2)Japanese Pediatric Asthma Control Program, JPAC(図6-3

わが国で開発された質問票で、最初の5 問で喘息症状と生活障害について、6問で長期管理薬の使用について問うことで、喘息重症度とともにコントロール状態が把握できる。15点満点で、15点は完全コントロール、14~ 12 点はコントロール良好(不十分)、11点以下はコントロール不良と判定し、15点を継続することを目標に治療を行う。

図6-3 JPAC 質問票

4.コントロール状態に基づく長期管理の実際

定期的なコントロール状態の評価に基づき適切な長期管理を行うためには、アドヒアランスの向上が重要であり、そのポイントを表6-4にまとめた。長期管理に際し、各項目をチェックし、繰り返し患者教育を行うことが必要である。また、短い診療時間の中では限界があり、医療スタッフとの協力や集団指導(喘息教室や喘息キャンプなど)を通じて効率よく行うことも一法である。環境整備以外の詳細については他章を参照していただきたい。コントロール状態に基づく長期管理の具体的な進め方については次章で解説する(図7-1参照)。
患児の年齢や発達段階に応じて指導の対象や内容を工夫する必要がある(JPGL2013ハンドブックの第13章参照)。乳幼児期であれば、指導の対象は保護者(主には母親)が中心となるが、発症後間もないために喘息についての知識が少なく不安が大きいと考えられる。また、幼い同胞を抱えている場合も多く、家事に忙しく育児不安が強い。喘息に関する指導とともに育児支援や父親の協力などへの配慮が必要である。小・中学生になれば徐々に患児本人への指導を本格化させ、保護者には見守る姿勢での対応を期待する。学業や部活動、習い事などで子ども自体の生活が忙しくなるとともに友人などとの対人関係も複雑になるので、安定しているときにはできるだけ日常生活に制限を加えないような通院方法を工夫することも重要である。また、運動量の増加に伴いEIAが目立つことが多いので対策を指導する(JPGL2013ハンドブックの第14章参照)。思春期、青年期になると心理特性から指示に従わないことが多くなり通院や治療中断がしばしば認められる。また、喫煙や生活の乱れも目立つようになる。そうならないようにあらかじめ患児自身への指導を繰り返し、アドヒアランスを十分に高めておくことが必要である。

表6-4 適切な長期管理を行うためのポイント

5.環境整備

小児喘息の発症や増悪には環境要因の関与が大きい。それらの環境要因を回避・除去することで気道炎症の進展や症状の誘発を最小限に抑えることは治療上極めて重要である。中でもアレルゲンや空気汚染、呼吸器感染症などによる増悪は日常生活の中での取り組みで軽減できる可能性が大きい。環境整備のポイントを表6-5に示す。

表6-5 環境整備のポイント

1)アレルゲン

喘息児の多くはアレルギー素因を有し、ダニや家屋塵、ペットなどに対する特異抗体を有する頻度が高い。食物抗原に対して陽性を示す例も多いが、喘息発症や増悪との関与は明確ではなく、発症予防を目的とした妊娠・授乳中の母親や乳児の食事制限は推奨されない。陽性アレルゲンの診断は、皮膚テストや血中特異IgE抗体を測定して行うが、陽性であることが必ずしも喘息の増悪因子になっているとは言えない。網羅的に検査するのではなく、問診により得られた情報から取捨選択し、増悪因子としての可能性が高い場合には除去指導を具体的に行い、QOLを損なわないような注意が必要である。

2)空気汚染

受動喫煙は年齢に関わらず、多くの深刻な健康被害をもたらし、喘息の発症・増悪、呼吸機能の低下を引き起こす。妊娠中の母親の受動喫煙の危険性も含め情報提供を行い禁煙の促進を啓発する必要がある。タバコ以外にも花火や線香、化粧品や接着剤、排気ガスや黄砂など、室内外に症状増悪因子が存在する。適切な情報提供を行い、必要に応じて室内空気の換気やマスクの着用などを指導する。

3)呼吸器感染症

喘息発症や増悪に気道ウイルス感染の関与する場合が多いことが示されている。特に乳幼児期は呼吸器感染に伴う反復性喘鳴の頻度が高く、喘息の診断に悩まされる。低出生体重児に対する抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体(パリビズマブ)の使用は反復性喘鳴発症を有意に抑制することが示されているが、喘息発症予防のための使用は費用対効果の面から現実的ではない。インフルエンザワクチンの接種が推奨されているが、発作の頻度に差を認めないとの報告もある。

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