長期管理に用いられる薬剤の特徴と使い方

1.長期管理における薬物療法の位置づけ

長期管理では、喘息増悪因子を減らすための環境整備と薬物療法を適宜組み合わせ包括的な治療を行うことが必要である。治療を長期に継続するためには、アドヒアランス向上を目指した患者教育を積極的に行わなければならないが、適切な薬物療法は安全で高い有効性が期待でき、喘息の長期管理を行う上で不可欠な治療法である。

2.長期管理薬(コントローラー)の種類と特徴

有症状時に発作治療薬(レリーバー)を適宜使用し早期に症状の軽減を図る必要があるが、長期管理では症状発現を予防するための長期管理薬(コントローラー)の継続使用が重要である。長期管理薬としては炎症抑制作用を有する薬剤(吸入ステロイド薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、クロモグリク酸ナトリウムなど)が主に用いられ、補助的にテオフィリン徐放製剤や長時間作用性β2刺激薬などが併用される。

1)吸入ステロイド薬(inhaled corticosteroid, ICS)

吸入ステロイド薬は直接気道に到達して気道炎症を抑制する。副作用発現の危険性は低いにもかかわらず、症状の消失、呼吸機能の改善、QOLの向上などの臨床効果が期待できるので、長期管理薬の中心的薬剤と位置付けられている。しかし、使用中断による再燃が多く、小児喘息の寛解率を上昇させることを示すエビデンスは得られていない。
現在、わが国で小児適応のある吸入ステロイド薬は、表7-1に示した4種類で、剤形は加圧噴霧式定量吸入(pMDI)、ドライパウダー式定量吸入(DPI)、吸入懸濁液がある。臨床効果は各薬剤、剤形により異なると考えらえるが、これまでの使用経験から判断した各薬剤の用量対比を表7-2に示した。投与量と効果には用量依存性が認められるが、投与量が多くなると増量効果が乏しく、副作用発現の危険性が急増する。そのため吸入ステロイド薬を高用量に増量する代わりに、ロイコトリエン受容体拮抗薬や長時間作用性β2 刺激薬、テオフィリン徐放製剤を併用することも選択肢となる。

表7-1 わが国で小児に適応のある吸入ステロイド薬

表7-2 各吸入ステロイド薬の用量対比表

使用開始にあたっては、患児の吸入能力を確認し、適切な吸入が可能である薬剤、剤形を選択し、十分に吸入指導を行う(JPGL2013ハンドブックの第12章参照)。pMDI使用時には吸入効率の上昇、副作用の発現予防を目的に吸入補助具(スペーサー)の使用が望ましい。乳幼児でもマスク付き吸入補助具の使用によりpMDIの使用が可能となることが多い。DPIでは十分な吸気流速が必要であり概ね5歳以上でないと使用困難である。
吸入ステロイド薬は全身性ステロイド薬に比べ圧倒的に副作用発現のリスクは低いが、ステロイド薬に対する感受性や吸入効率は個人差が大きいため、発現の可能性のある副作用については常に注意し、漫然と使用するのではなく、最少必要量で維持するよう心掛けることが重要である(表7-3)。

表7-3 吸入ステロイド薬の副作用

2)ロイコトリエン受容体拮抗薬( leukotriene receptor antagonist, LTRA)

喘息の急性増悪や慢性炎症に関与する重要な化学伝達物質であるシステイニルロイコトリエン(LTC4、LTD4、LTE4)の作用を遮断することにより、好酸球性炎症や気道リモデリングの抑制効果を有する。わが国ではプランルカスト水和物とモンテルカストナトリウムが小児喘息の適応として認められている。
発作症状の軽減や呼吸機能の改善などの効果は使用開始後1~2週で確認されることが多い。吸入β2刺激薬に比べると弱いが運動誘発喘息の抑制効果もあり、長期使用でも服薬遵守率が高く効果は減弱しない。軽症例においては、吸入ステロイド薬とほぼ同等の効果が得られており、呼吸器ウイルス感染症に関連する喘息症状の悪化に対する抑制効果も示されている。また、吸入ステロイド薬への追加薬としての有効性や吸入ステロイド薬の減量効果も認められている。
副作用は発疹、下痢・腹痛、肝機能障害などであるが、一般的には安全性が高い。

3)クロモグリク酸ナトリウム( disodium cromoglycate, DSCG)

マスト細胞からの化学伝達物質遊離抑制作用を中心に、アレルギー性や神経原性の炎症反応抑制、喘息発作の誘因となるウイルス感染の抑制などが示されており、前投与により抗原吸入によっておこる即時型ならびに遅発型反応、冷気や運動などによる気道収縮も予防できる。カプセル剤(20mg/カプセル)はスピンヘラー、イーヘラーで吸入し、他にpMDI(1mg/噴霧)、吸入液(20mg/2mL)もある。
発症早期の使用が有用で、症状の抑制、併用薬の減量、呼吸機能の改善などの臨床効果が認められる。しかし、中等症以上の小児に対する呼吸機能の改善率は吸入ステロイド薬に劣るため、治療ステップ1、治療ステップ2での使用を推奨している。なお、中等症や重症の小児喘息ではDSCGに少量の吸入β2刺激薬(サルブタモール吸入液またはプロカテロール吸入液0.05~0.1cc)を混じて定期的に吸入することで単独群に比し有用性が高いことが示されたが、漫然とした吸入β2刺激薬の使用は好ましくないので、速やかな吸入ステロイド薬の導入、増量などステップアップが勧められる。
副作用は極めて少ないが、時に咽喉頭の刺激感や咳の誘発、発疹などが認められる。

4)テオフィリン徐放製剤(sustained released theophylline, SRT)

血中濃度に依存した気管支拡張効果が認められるので、製剤上の工夫により徐放性を高め1日2回の定期投与(round the clock:RTC療法)で血中濃度を維持し、喘息症状を持続的に抑制する薬剤として開発された。気管支拡張作用を期待して用いられてきたが、最近では抗炎症作用の存在が有力視され、ステロイド薬の作用補強効果も期待されている。
テオフィリン代謝は個人差、年齢差が大きく、発熱や食事内容、薬剤(エリスロマイシン、クラリスロマイシンなど)などにより影響されるため、血中テオフィリン濃度の上昇により副作用を発現する場合がある。使用にあたっては、8~10mg/kg/日(分2)より開始し、適宜血中濃度測定を行い5~15μg/mLに維持する。炎症抑制作用は10μg/mL以下でも認められる。発熱時には「服用を控える」、「服用量を半減する」などをあらかじめ具体的に指示しておく必要がある。
テオフィリンによる副作用としては、悪心・嘔吐、食欲不振、下痢などの胃腸症状、興奮、不眠などの神経症状が多いが、血中濃度の上昇により頻脈・不整脈、さらには痙攣、死亡に至る場合もある。乳幼児ではテオフィリン使用中の痙攣重積やこれに伴う後遺症が問題となり表7-4の注意喚起がなされている。これに伴いテオフィリン徐放製剤の使用は著しく減少している。

表7-4 乳児喘息長期管理におけるテオフィリン徐放製剤の定期内服の位置づけと留意点

5)長時間作用性β2刺激薬(long acting β2 agonist, LABA)

β2刺激薬は気管支拡張薬であり、気管支収縮を改善させることを目的に短期間用いられる。ただし、長時間作用性のものは、吸入ステロイド薬と併用して長期管理に用いられることがある。症状がコントロールされたら中止するのが原則であり、単独での長期連用は推奨されない。わが国では、吸入薬、経皮吸収型貼付薬、経口薬が用いられる。

(1)長時間作用性吸入β2刺激薬

わが国では単剤としてはサルメテロールキシナホ酸塩のDPI製剤のみが使用可能であり、5歳以上が適応となっている。12時間以上気管支拡張効果が持続するので1日2回投与で用いられる。吸入ステロイド薬と併用することが基本であり、フルチカゾンとの併用では配合剤(後述)が使用される。メタ解析においてサルメテロールの常用は重篤な有害事象の頻度を高める可能性が示唆され、米国食品医薬品局(FDA)では、必ず十分量の吸入ステロイド薬と併用し、必要以上の長期使用は控えるよう推奨している。

(2)経皮吸収型β2刺激薬

ツロブテロール貼付薬で、持続的に一定量の薬剤が経皮吸収されることにより、1回の貼付で24 時間気管支拡張効果が維持される(後発品では徐放性が十分確保されていないものがあると報告されている)。吸入ステロイド薬との併用が基本であり、特に長時間作用性吸入β2刺激薬の使用できない乳幼児では有力な治療法となっている。簡便に使用でき副作用は少ないが、漫然とした咳止めとしての使用は避け、臨床効果や気道過敏性への影響などの確認が必要である。
使用量は3歳未満0.5mg、3~8歳1mg、9歳以上2mgを就寝前に胸部、背部あるいは上腕部に全面が密着するように貼付する。

(3)長時間作用性経口β2刺激薬

プロカテロール塩酸塩水和物、クレンブテロール塩酸塩、ツロブテロール塩酸塩が含まれるが、安易な連用は慎み、その必要性について十分に検討すべきである。

6)吸入ステロイド薬/長時間作用性吸入β2刺激薬配合剤

わが国では、吸入ステロイド薬であるフルチカゾン(FP)と長時間作用性吸入β2刺激薬であるサルメテロール(SLM)の配合剤(SFC)のうちpMDIとDPIの一部の製剤が5歳以上の小児に対する適応を有している(表7-1)。
2つの薬剤を別々に吸入して併用する場合に比べ、配合薬を用いる方が吸入の手間が簡略化される上、臨床効果も優れていることが示されている。また、FP200μg/日でコントロール不十分な小児喘息患者に対するステップアップ法の検討では、同量のFPを含むSFCへの変更はFPの倍量への増量やロイコトリエン受容体拮抗薬の追加と比べ、同等あるいは優る治療法であることが示されている。しかし、ステップダウンに関する検討は乏しく、SFCとして減量する場合とSLMを中止してFPを維持する場合の優劣は不明である。わが国で使用可能となっているSLM25μg/FP50μg製剤の使用法も含め今後の検討が必要である。

3.長期管理における薬物療法の進め方

1)長期管理における薬物療法の開始

喘息の診断が確定すれば、臨床症状と治療内容を考慮して真の重症度を判定し(表5-2参照)、その重症度に対応する治療ステップの基本治療薬を中心とした薬物治療を開始する。早期に十分な治療効果をあげられると考えられる治療薬の組み合わせを選択し、早期に治療目標を達成した後、良好なコントロール状態を維持するために必要な最少量の薬物へ徐々に減量するのが望ましい。具体的には、2歳未満、2~5歳、6~15歳の各年齢区分で長期管理に関する薬物療法が提示され(表7-57-67-7)、治療ステップ1~4は、それぞれが喘息重症度の間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型に対応している。また、基本治療薬は治療の中核となる薬剤、追加治療薬は基本治療薬に加えて補助的に用いられる薬剤として位置づけられている。吸入ステロイド薬の投与量を軽症持続型には低用量、中等症持続型には中用量、重症持続型には高用量とすることで、吸入ステロイド使用量から喘息重症度を推定可能である。
治療開始にあたっては、喘息の病態、治療目標、用いる薬剤の作用や期待できる効果、具体的な使用法、短期的ならびに長期的治療展望などを説明し、治療アドヒアランスの向上を図ることが重要である。

表7-5 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(2歳未満)

表7-6 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(2~5歳)

表7-7 小児気管支喘息の長期管理に関する薬物療法プラン(6~15歳)

2)薬物療法のステップアップ、ステップダウン

長期管理に際しては、治療の有効性や患者の治療に対するアドヒアランスを確認するとともにコントロール状態の評価を定期的に行い、対応を検討する(図7-1)。治療のステップアップ、ステップダウンは基本的にはコントロール状態を参考に行うが、喘息重症度や急性増悪に伴う入院や全身性ステロイド薬の使用歴、症状の季節性変動など各患者固有の悪化因子(リスク)を考慮して治療方針を決定する必要がある。一般的には良好な状態が3か月程度維持できれば薬物療法のステップダウンを検討する。

図7-1 コントロール状態による長期管理の進め方

ただし、乳幼児では喘息の診断を広義にとらえているため真の喘息ではない児が混じている可能性があるので早期のステップダウンを考慮する。また、喘息重症度がより重症である患者ではステップダウンを急ぐより安定した時期を長期に維持することが望ましい場合もある。ステップダウンは原則として追加治療薬の減量中止を優先し、基本治療薬の減量中止はそのあとに行う。
比較的良好と判断される状態では治療内容を維持することになるが、何か月にもわたり比較的良好の状態が継続している場合にはコントロールが不十分と判断してステップアップする必要がある。
不良と判断される場合にはステップアップが必要となる。しかし、その前に喘息の診断は正しいか、治療効果を妨げる因子(アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、胃食道逆流症などの合併や喫煙、発達障害、心理社会的要因など)はないか、治療アドヒアランスは良好かなどを再検討し必要な対策を講じる。
薬物療法のステップアップ、ステップダウンは治療ステップの変更を意味するだけでなく、同じ治療ステップの中での吸入ステロイド薬の使用量や追加治療薬の使用の変化も含めた概念である。

3)長期管理薬の中止

長期管理における薬物療法の中止方法に関する一定の基準は現在のところ存在しない、一般的には薬剤を徐々に減量して最少量でコントロール状態「良好」が維持できており、呼吸機能も正常であれば中止を試みる。無治療で無症状状態が維持できれば寛解として経過観察するが、寛解は必ずしも治癒を意味しない。一旦寛解した後であっても再燃する危険性があるので長期管理を中止する場合には、再燃の危険性、再燃予防のための環境整備や日常生活管理、再燃時の早期対応などを指導しておく。禁煙指導も必須である。

付記 長期入院療法

身体的に重症な場合や心理社会的問題を抱えているために管理困難となる喘息児で、長期に入院加療を必要とする場合がある。家庭環境から隔離し、疾患教育や生活指導を行いながら、併設の特別支援学校や院内学級への通学で教育を保障し、身体的、精神的成長を促し、地域の教育・行政・福祉など関連諸機関と連携して問題を克服し自宅への復帰を目指す。

戻る