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第1章 定義・分類・症状

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーとは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義する。
  2. 2食物またはその成分がアレルギー症状の誘発に関与している場合は、そのアレルゲンの侵入経路を問わず、食物アレルギーとする。
  3. 3食物アレルギーは、免疫学的機序によって大きくIgE依存性反応と非IgE依存性反応に分けられる。また、アレルゲン曝露から症状誘発の時間経過によって、即時型反応と非即時型反応に分けられる。IgE依存性反応の多くは即時型反応を呈するが、両者は必ずしも一致しない。
  4. 4食物アレルギーによって、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器などのさまざまな臓器に症状が誘発される。
  5. 5アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義する。アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合を、アナフィラキシーショックという。
図1-1 食物による不利益な反応のタイプ

食物アレルギーは、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義される。免疫学的機序にはIgE依存性反応と非IgE依存性反応がある。免疫学的機序によらないものを「食物不耐症」と総称する。

表1-2 食物アレルギーの臨床型分類

食物アレルギーの臨床型は表のように分類される。中でも「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」は、食物が湿疹の増悪に関与している場合や、原因食物の摂取によって即時型症状を誘発することがある。ただし、全ての乳児アトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではない。

表1-3 食物アレルギーの症状

これらの多くは即時型反応として観察されるが、一部に非即時型反応も含まれる。症状の重症度判定については第10章を参照のこと。アナフィラキシーは「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義される。

図1-2 アナフィラキシーの診断基準

WAOガイドラインを翻訳して日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン」に掲載されたアナフィラキシーの診断基準。詳細については、同ガイドラインを参照されたい。

第2章 免疫学的背景の知識

[ 要 旨 ]

  1. 1経口免疫寛容の破綻は食物アレルギーの発症メカニズムの一つと考えられている。
  2. 2IgE依存性反応では、アレルゲン特異的IgE抗体が誘導され、マスト細胞上の高親和性IgE受容体に結合して感作が成立する。
  3. 3IgE依存性反応ではマスト細胞上の複数のアレルゲン特異的IgE抗体とアレルゲンの結合によりIgE抗体が架橋され、脱顆粒によるケミカルメディエーターの放出と脂質メディエーターなどの産生が誘導される。
  4. 4乳幼児期の即時型食物アレルギー患者の多くは成長とともに自然耐性を獲得する。その機序として、成長による消化管の消化機能、物理化学的防御機構、経口免疫寛容の発達などが考えられている。
図2-2 IgE依存性食物アレルギーの機序

IgE依存性食物アレルギーでは、食物アレルゲン特異的IgE抗体が産生され、マスト細胞上の高親和性IgE受容体に結合して感作が成立する。複数の食物アレルゲン特異的IgE抗体と食物アレルゲンの結合によりIgE 抗体が架橋され、脱顆粒によるケミカルメディエーターの放出と脂質メディエーターなどの産生が誘導され症状が誘発される。

第3章 疫学・自然歴

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーの有症率は、乳児期が最も高く加齢とともに漸減する。
  2. 2有症率は、その判断基準(感作の有無、自己申告、食物経口負荷試験結果)により割合が大きく異なるので、結果の解釈に注意が必要である。
  3. 3わが国の即時型食物アレルギーの主要原因食物は鶏卵、牛乳、小麦であるが、年齢群により種類や順位が異なる特徴がある。誘発症状は皮膚症状が高率に認められ、ショック症状がおよそ10%に認められる。
  4. 4鶏卵、牛乳、小麦、大豆は自然耐性獲得率が高いと考えられているが、各種調査報告により結果のばらつきが大きい。主要原因食物以外の自然歴の調査報告は少なく、実態は不明である。
  5. 5乳幼児期に発症する食物アレルギー児は、その後、喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性 皮膚炎などを高頻度に発症する、いわゆるアレルギーマーチをたどるリスクが高い。
図3-1 食物アレルギーの年齢分布

0歳が34%で最も多く、以降加齢とともに漸減する。5歳以下で80%、10歳以下で90%を占める。このように我が国の即時型食物アレルギーは乳幼児期に極めて多い。しかし18歳以上も5%おり、注意が必要である。

図3-2 食物アレルギーの原因食物の内訳

鶏卵、牛乳、小麦が多く、上位3抗原で全体の約72%を占める。また上位5抗原で約82%、10抗原では約95%を占める。このように我が国の即時型食物アレルギーは特定の食物によって発症することが多い。

表3-1 新規発症の原因食物

年齢群ごとに5%以上を占めるものを上位第5位まで記載
(今井孝成,ほか.アレルギー.2016;65:942-6より転載)

年齢群によって新規発症の原因食物の種類は異なり、それぞれ特徴がある。3大原因食物は乳幼児期に多く、学童期以降は甲殻類、果物類、魚類などが増えてくる。

表3-2 誤食の原因食物

年齢群ごとに5%以上を占めるものを上位第5位まで記載
(今井孝成,ほか.アレルギー.2016;65:942-6より転載)

年齢群による誤食の原因食物の種類は大きく変動しない。特定原材料である7食物による誤食が非常に多い。

図3-3 臓器別の症状出現頻度

皮膚症状が92%で最も多く、その後呼吸器、粘膜、消化器症状と続く。ショック症状も10%認められる。

表3-3 鶏卵アレルギーの自然歴

OFC:食物経口負荷試験、An:アナフィラキシー、SPT:皮膚プリックテスト、AD:アトピー性皮膚炎

報告によってばらつきが大きいが、総じて高い割合で耐性を獲得していく。我が国の報告では6歳で66%が耐性化するとされる。

表3-4 牛乳アレルギーの自然歴

OFC:食物経口負荷試験、SPT:皮膚プリックテスト、AD:アトピー性皮膚炎、DBPCFC:二重盲検プラセボ対照食物負荷試験

報告によってばらつきが大きいが、総じて高い割合で耐性を獲得していく。我が国の報告では3歳で60%が耐性化するとされる。

表3-5 小麦の自然歴

OFC:食物経口負荷試験

報告によってばらつきが大きいが、総じて高い割合で耐性を獲得していく。我が国の報告では3歳で63%が耐性化するとされる。

第4章 自然経過

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーの発症リスクに影響する因子として、家族歴、遺伝的素因、皮膚バリア機能、出生季節などが検討されているが、中でもアトピー性皮膚炎の存在が重要である。
  2. 2食物アレルギーの発症予防のため、妊娠中や授乳中に母親が特定の食物を除去することは、効果が否定されている上に母親の栄養状態に対して有害であり、推奨されない。
  3. 3ハイリスク乳児に対して特定の食物の摂取開始時期を遅らせることは、発症リスクを低下させることにはつながらず、推奨されない。
  4. 4完全母乳栄養がアレルギー疾患の予防という点において優れているという十分なエビデンスはない。
  5. 5 ハイリスク乳児への新生児期からの保湿スキンケアがアトピー性皮膚炎発症を予防する可能性が報告されたが、食物アレルギーの発症予防効果は証明されていない。
図4-1 食物アレルギーのリスク因子

食物アレルギーの発症に影響を与える因子として、家族歴や遺伝的素因、環境中の食物アレルゲン、出生季節・日光照射、皮膚バリア機能の低下などが知られており、中でもアトピー性皮膚炎の存在が重要とされる。

表4-2 食物アレルギー発症予防に関するまとめ

*1:ピーナッツの導入を遅らせることがピーナッツアレルギーの進展のリスクを増大させることにつながる可能性が報告され、海外、 特にピーナッツアレルギーが多い国では乳児期の早期(4~10か月)にピーナッツを含む食品の摂取を開始することが推奨されている。
*2:アレルギーを発症しやすい食物(ピーナッツ、鶏卵)を生後3か月から摂取させることが、生後6か月以降に開始するよりも食物アレルギーの発症リスクを低減させる可能性が海外から報告されたが、安全に耐性を誘導する食物の量や質についてはいまだに不明な点があり、研究段階といえる。

●近年のコクランレビューにより、妊娠・授乳中の母親の食物除去による食物アレルギー発症予防効果は否定されている。
●完全母乳栄養と食物アレルギーの関連については、予防に有用である、発症に関連しない、発症リスクである、と報告が分かれている。
●近年、ハイリスクの乳児において、ピーナッツおよび鶏卵の摂取開始時期を遅らせることが発症リスクを増加させるという報告がなされた。しかし、乳児期に安全かつ効果的に耐性を誘導させる食物の量や質、方法については現在も研究段階にあり、今後の課題である。

第5章 食物アレルゲン

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルゲンの本体は、大部分が食物に含まれるタンパク質である。
  2. 2食物中で特異的IgE抗体が結合するそれぞれのタンパク質をアレルゲンコンポーネント、その結合部位をエピトープ(抗原決定基)という。
  3. 3遺伝子配列またはアミノ酸配列が同定されたアレルゲンコンポーネントは、国際分類で命名されている(例:Ara h 2、Gly m 4など)。
  4. 4植物性食物アレルゲンの多くは4つのタンパク質スーパーファミリー(プロラミン、クーピン、Bet v 1ホモログ、プロフィリン)に、動物性食物アレルゲンの多くは3つのタンパク質スーパーファミリー(トロポミオシン、パルブアルブミン、カゼイン)に属している。
  5. 5臨床症状と関連のあるアレルゲンコンポーネントが明らかになってきている。
図5-1 タンパク質の消化・熱処理による変化

特異的IgE抗体はタンパク質構造の特定の部位(エピトープ)を認識して結合する。一連のアミノ酸配列で構成されるものを連続性エピトープ、立体構造によって形成された不連続なアミノ酸配列で構成されるものを構造的エピトープという。

表5-2 植物性食物アレルゲンタンパク質スーパーファミリーの特徴

LTP:脂質輸送タンパク質、OAS:口腔アレルギー症候群

食物アレルゲンは限られたタンパク質ファミリーに所属していることが明らかになっおり、植物由来の食物アレルゲンでは6割以上が4つのタンパク質ファミリー(プロラミン、クーピン、PR-10、プロフィリン)に所属している。

表5-3 動物性食物アレルゲンタンパク質スーパーファミリーの特徴

動物由来の食物アレルゲンの多くが、トロポミオシン、パルブアルブミン、カゼインの3つのタンパク質ファミリーに所属している。リポカリンは吸入アレルゲン(動物の唾液など)として重要であると同時に牛乳のβ-ラクトグロブリンが所属するタンパク質ファミリーでもある。

表5-4 主な小麦アレルゲン

HWPEIA:hydrolyzed wheat protein exercise-induced anaphylaxis
WDEIA:wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis
An:anaphylaxis

小麦には、多くのアレルゲンコンポーネントが存在して、それぞれ異なる病態に関与することが知られている。

表5-5 主な大豆アレルゲン

Gly m 4は、花粉-食物アレルギー症候群の原因抗原といわれている。Gly m 8は小児の即時型大豆アレルギーとの関連が報告されている。

表5-7 種子類の主なアレルゲン

種子類では、生物学的分類上はかけ離れたもの同士でも交差抗原性が認められることがあり、コンポーネントレベルでの理解が重要になってくる。ピーナッツのAra h 2の特異的IgE抗体測定は臨床検査として用いられている。

表5-8 果物・野菜の生物学的分類と主なアレルゲン

果物・野菜で同定されているアレルゲンの多くはPR-10、プロフィリンである。

表5-9 主な鶏卵(卵白)アレルゲン

卵白の主なアレルゲンは、オボムコイドとオボアルブミンである。オボムコイドは加熱によって変性しにくい性質を持つ。

表5-10 主な牛乳アレルゲン

牛乳の主なアレルゲンは、カゼインとβ-ラクトグロブリンである。

図5-9 cross-reactive carbohydrate determinant( CCD)の構造

CCDを認識するIgE抗体は多種の豆類やナッツ類に交差抗原性をもたらすが、マスト細胞を脱顆粒させる力が弱いため、アレルギー症状を惹起することが少ない。

表5-11 食物アレルギー患者が注意を要する食物抗原を含む医療用医薬品
【投与禁忌の医療用医薬品】

医療用医薬品に食物由来の成分が含まれていることがある。上記以外に漢方薬の中には小麦(該当生薬:小麦)、ゴマ(該当生薬:胡麻)、モモ(該当生薬:桃仁)、ヤマイモ(該当生薬:山薬)、ゼラチン(該当生薬:阿膠アキョウ)などを含むものが存在する。

【投与禁忌の一般用医薬品など】

■インフルエンザワクチン接種:
鶏卵完全除去中や鶏卵摂取後にアナフィラキシーを起こした病歴がある児など、接種可否の判断が困難な症例の場合は、専門施設へ紹介する(「インフルエンザ予防接種ガイドライン2015年版」)。
■ 各薬剤の添付文書情報は「医薬品医療機器情報提供ホームページ」より検索が可能である。
http://www.info.pmda.go.jp/index.html

口腔ケア製品・化粧品・入浴剤・石鹸など生活用品にも食物由来の成分が含まれていることがある。

第6章 診断と検査(食物経口負荷試験を除く)

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーは、特定の食物摂取によりアレルギー症状が誘発され、それが特異的IgE抗体など免疫学的機序を介する可能性を確認することによって診断される。
  2. 2乳児のアトピー性皮膚炎では、まずスキンケア指導などで湿疹を改善させた上で、食物アレルギーの関与について検索を進める。
  3. 3食物アレルゲンと誘発症状の関連を詳細な問診によって明らかにすることが診断につながる。
  4. 4免疫学的検査には特異的IgE抗体検査、皮膚プリックテスト、好塩基球ヒスタミン遊離試験などがある。
  5. 5特異的IgE抗体検査は、検査法により測定結果や評価法が異なることに留意する。アレルゲンコンポーネント特異的IgE抗体を測定することにより、診断精度を上げることができる。
  6. 6特異的IgE抗体価と診断確定率の関係を示したさまざまなプロバビリティカーブが報告されている。
    目的に応じて、適切な情報を参考にすることが望ましい。

注1: スキンケア指導
スキンケアは皮膚の清潔と保湿が基本であり、詳細は「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2012」などを参照する。
注2:薬物療法
薬物療法の中心はステロイド外用薬であり、その使用方法については「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2012」などを参照する。
非ステロイド系外用薬は接触皮膚炎を惹起することがあるので注意する。
注3:特異的IgE抗体陰性
生後6か月未満の乳児では血中抗原特異的IgE抗体は陰性になることもあるので、プリックテストも有用である。

図6-1a 食物アレルギー診断のフローチャート (食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎)

乳児アトピー性皮膚炎では、詳細な問診の上、スキンケア指導を行っても症状不変であった場合に食物アレルギーの存在を考慮する。特異的IgE抗体陽性だけでは診断確定とはならず、食物除去試験で症状改善し、食物経口負荷試験で症状誘発を確認することが必要である。

図6-1b 食物アレルギー診断のフローチャート(即時型症状)

即時型アレルギー反応で発症し、食物アレルギーの関与が疑われる場合は、詳細な問診の上、疑われた食物について免疫学的検査を行う。原因食物が容易に予測できない場合はアレルギー専門の医師に紹介する。誘発された症状がアレルギー反応であるか疑わしい、複数の原因食物が疑われる、誘発閾値量や症状の重症度を決定したい、といった場合には、食物経口負荷試験による確定診断を行う。

図6-3 代表的なプロバビリティカーブ

プロバビリティーカーブは負荷試験が陽性となる確率を示すものであり、あくまで参考値である。カーブを読む時には、(1)どのような対象集団で算出されたか、(2)食物アレルギーの判断(食物経口負荷試験、症状誘発歴、陽性の判定基準など)、(3)食物経口負荷試験の方法(加熱卵か非加熱卵か、負荷量など)により結果(確率)が異なることに注意する。

表6-2 保険適用されている 食物アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査

粗抗原に加え、アレルゲンコンポーネント特異的IgE 抗体の測定により、より精度の高い診断が可能となる。 追記) Hev b 6.02は現在一時的に測定を中断しているが、間もなく測定が再開される予定である。

第7章 食物経口負荷試験(OFC)

[ 要 旨 ]

  1. 1食物経口負荷試験(oral food challenge, OFC)は、アレルギーが確定しているか疑われる食品を単回または複数回に分割して摂取させ、症状の有無を確認する検査である。
  2. 2食物経口負荷試験は、食物アレルギーの最も確実な診断法であり、確定診断および耐性獲得の確認を主な目的として実施する。
  3. 3食物摂取に関連した誘発症状の詳細な病歴、基礎疾患、合併症、免疫学的検査データを参考にリスクを評価し、適切な総負荷量、実施時期および方法を決定する。
  4. 4食物経口負荷試験で症状がない場合や、はっきりしない場合は、負荷後数回にわたり再現性を確認する。
  5. 5食物経口負荷試験では、アナフィラキシーなど、重篤な症状が誘発される可能性があり、文書による説明と同意のもとで緊急対応が可能な体制を整備して実施する。
表7-1 食物経口負荷試験の目的

※:新生児・乳児消化管アレルギーの負荷試験に関しては、第12章を参照。

食物経口負荷試験とは、アレルギーが確定しているもしくは疑われる食品を単回または複数回に分割して摂取させ、誘発症状の有無を確認する検査である。食物アレルギーの確定診断、安全に食べられる量の確認および耐性獲得しているかどうかを確認する目的で行なう。

表7-2 重篤な症状を誘発しやすい要因

病歴、負荷予定の食物の種類、免疫学的検査の結果と基礎疾患をリスク因子として評価し、施行時期、負荷食品、総負荷量の選択を行なう。

表7-4 食物経口負荷試験(オープン法)の総負荷量の例

日常摂取量(full dose)の総負荷量は小学生の1回の食事量を想定し、耐性獲得を確認する量を想定している。
乳幼児などでは必要に応じて総負荷量を減量することを考慮する。
少量(low dose)の総負荷量は誤食などで混入する可能性がある量に設定し、ハイリスク例の初回の食物経口負荷試験を想定している。負荷の摂取間隔は20分以上が望ましい。

単回摂取、又は分割摂取させる総量を総負荷量という。微量誘発の可能性があるようなハイリスク例の場合は少量を目標量とした負荷試験を行い、それが陰性であれば中等量や日常摂取量の負荷試験に進むステップを設定するとよい。

表7-6 食物経口負荷試験の摂取間隔および分割方法の例

摂取間隔は20-60分で、1〜2時間の中で1〜5回に分けて漸増摂取する。最終摂取から最低2時間は経過を観察する。

第8章 栄養食事指導

[ 要 旨 ]

  1. 1栄養食事指導のポイントは、必要最小限の除去、安全性の確保、栄養面への配慮、患者と家族のQOL維持である。
  2. 2患者や家族に対して、誤食を防止するために生活上で注意すべき点を指導する。
  3. 3食品表示法(平成27年4月施行)からアレルギー物質の表示方法が一部変更となったが、経過措置期間は旧法に基づく表示の加工食品も流通している。
  4. 4食物除去の開始後は定期的に栄養面を評価し、必要に応じて栄養士の協力を得て栄養指導をする。
  5. 5食物経口負荷試験などによる評価をもとに、安全性を確保しつつ具体的な食品を挙げるなどして個々の患者に合わせた食事指導をする。
図8-1 管理栄養士との連携

栄養食事指導の基本は、原因食物の必要最小限の除去である。関係者の情報共有を行い、安全には十分配慮する。患者だけではなく家族のQOLにも配慮した指導が求められる。

表8-2 表示の対象

※: 食品中に原材料のアレルゲンが総タンパク量として数μg/g
含有または数μg/mL濃度レベルのものが表示の対象となる。

現在「アレルゲン」として特定原材料7 品目(表示義務あり)とそれに準ずる20品目(表示を推奨)の計27品目が表示の対象となっている。

表8-3 加工食品のアレルギー表示

※: 平成27年4月施行された食品表示法によって廃止されたが、施行以前に加工された食品が一部流通している可能性もある。

食品表示法になり表記方法が変更され、特定加工食品が廃止された。

表8-5 一般的に除去が不要な食品一覧

※: 重症者では上記食品の一部で症状が見られたという報告もある。

食物アレルギー患者の多くでは、それぞれ例示した食品の除去は必要としないことが多い。

表8-6 牛乳アレルゲン除去調製粉乳

*1: ビオチン・カルニチン添加製品の製造承認を取得し今後切り替え予定。
*2: 標準調乳100mLの含有量。
※:風味は分子量が大きいほど良好で飲みやすい。

わが国で使用されている牛乳アレルゲン除去調製粉乳の濃度、分子量、組成を示す。すべての製品にビオチンなどの微量栄養素が添加されている。

第9章 経口免疫療法

[ 要 旨 ]

  1. 1本ガイドラインでは、経口免疫療法(oral immunotherapy)を食物アレルギーの一般診療として推奨しない。
  2. 2経口免疫療法とは「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の食物経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療法」とする。
  3. 3食物アレルギー診療を熟知した専門医(日常的に食物経口負荷試験を実施し、症状誘発時の対応が十分に行える医師)が、症状出現時の救急対応に万全を期した上で、臨床研究として慎重に施行すべきである。
  4. 4治療の過程で即時型症状を多くの症例に認め、予期せずにアナフィラキシーを含む重篤な症状を誘発することがある。
  5. 5脱感作状態とは原因食物を摂取し続けていれば症状が現れない状態をいう。しかし、患者の一部では治療を中断すると症状誘発閾値が元に戻ることや摂取後の運動により症状が誘発されることがある。
表9-1 経口免疫療法の問題点

米国や欧州のガイドラインにおいても経口免疫療法を一般診療として推奨していない。わが国では2015年の調査では約8000人に経口免疫療法が実施されているが、その一部には倫理委員会での承認を受けずに実施している施設や安全対策の不備が見受けられる。

表9-2 経口免疫療法実施施設に求められる条件

経口免疫療法は治療中の症状誘発リスクが高く保険適用もないため、倫理委員会での承認および十分な安全対策を取り実施すべきである。

表9-3 経口免疫療法による免疫学的応答

経口免疫療法では表に示すような免疫学的応答が起こり、治療効果に関連すると報告されている。経口免疫療法で得られる脱感作状態は、自然経過による耐性獲得とは異なると考えるのが妥当である。

表9-4 経口免疫療法の対象者の選択基準と禁忌

経口免疫療法は、完全除去継続と比較して、アドレナリン筋肉注射やステロイド薬投与を要する誘発症状のリスクが高く患者への負担は大きい。このため経口免疫療法は効果とリスクのバランスを吟味して、十分なインフォームドコンセントのもとに実施すべきである。

表9-5 臨床研究に基づく治療効果のまとめ

*1:摂取1回当たり、*2:総症例数当たり

経口免疫療法により多くの患者は症状誘発閾値の上昇あるいは脱感作状態に到達できる。しかし、治療経過中に多くの症例に誘発症状が認められる。好酸球性食道炎・腸炎などの非即時の副反応も報告されている。

第10章 症状の重症度判定と対症療法

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーによる症状は臓器ごとに重症度分類を用いて評価し、重症度に基づいた治療を行う。
  2. 2アドレナリン筋肉注射はアナフィラキシーに対する第一選択薬である。ステロイド薬の効果のエビデンスは立証されておらず、二相性反応の予防として用いる。
  3. 3皮膚症状に対しては鎮静作用の少ない第二世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬の内服、下気道症状に対してはβ2刺激薬吸入の効果が期待できる。
  4. 4アナフィラキシーでは仰臥位ならびに下肢挙上のポジショニングを行い、必要により高流量酸素投与、生理食塩水もしくは各種リンゲル液の急速補液を行う。
  5. 5アナフィラキシーでは、一旦症状が改善した後に再び症状が増悪することがあるため、十分な観察時間と本人、保護者への指導が必要である。
  6. 6α受容体遮断作用を有する抗精神病薬とアドレナリンは添付文書上併用禁忌であるが、同抗精神病薬が使用されている患者がアナフィラキシーに陥ったときには、医師の裁量のもと救命のためにアドレナリンを使用することは許容される。
表10-1 臨床所見による重症度分類

*1:血圧軽度低下:1歳未満<80mmHg、1~10歳<[80+(2×年齢)mmHg]、11歳~成人<100mmHg
*2:血圧低下  :1歳未満<70mmHg、1~10歳<[70+(2×年齢)mmHg]、11歳~成人<90mmHg

(柳田紀之, ほか.日小ア誌.2014;28:201-10.より改変)

誘発症状は各臓器(皮膚・粘膜、呼吸器、消化器、神経、循環器)の即時型症状について、グレード1(軽症)、グレード2(中等症)、グレード3(重症)に分類する.重症度判定は最も強い臓器症状によって行う.

図10-1 重症度に基づいた症状に対する治療

各臓器の誘発症状の重症度を評価し、重症度に応じた治療を行う。アドレナリン筋肉注射の適用はグレード3の症状を認めたときである.ただし、グレード2の症状でも過去に重篤なアナフィラキシーの既往がある場合、症状の進行が激烈な場合、循環器症状を認める場合、呼吸器症状で気管支拡張薬の吸入でも改善しない場合は、アドレナリンの投与を考慮する.

表10-2 小児適用のある、鎮静作用の 少ない第2世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬

※いずれも蕁麻疹、皮膚疾患(皮膚瘙痒症)に対する用量

第一世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は副作用として眠気やだるさがあり、症状としての循環器症状や神経症状との鑑別が困難となるため、安易な投与は控えるべきである.

表10-3 アドレナリンの薬理学的作用、副作用

わが国のアドレナリン注射薬の添付文書には、ブチロフェノン系、フェノチアジン系などの抗精神病薬、α遮断薬との併用は昇圧作用の反転により低血圧が見られることがあるために併用禁忌と記載されている.しかし、本ガイドラインでは併用禁忌薬を使用している患者がアナフィラキシーに陥ったときは、医師の裁量のもと救命のためにアドレナリンを使用することは許容されると記載した.

第11-1章 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)

[ 要 旨 ]

  1. 1食物依存性運動誘発アナフィラキシー(food-dependent exercise-induced anaphylaxis, FDEIA)は特定の食物摂取後の運動負荷によってアナフィラキシーが誘発される疾患である。ただし、原因食物の即時型アレルギーの
    既往を有する場合や経口免疫療法後などはこれに含めない。
  2. 2発症機序はIgE依存性で、原因食物は小麦と甲殻類が多い。食後2時間以内の運動による発症が大部分であるが、誘発のしやすさにはいくつかの要因が関与する。
  3. 3発症頻度は中学生約6,000人に1人で、初回発症年齢のピークは10~20歳代である。
  4. 4診断は問診とアレルギー検査から原因食物を絞り込み、誘発試験を実施する。しかし、誘発試験の再現性は必ずしも高くない。
  5. 5再発症の防止には原因食物の確定ならびに患者と保護者への教育・指導が重要である。その際に、不適切な食事・運動制限で患児のQOLを損なわないよう注意する。
表11-1 発症に影響する要因

FDEIAは通常の即時型反応とは異なり、特定の食物摂取と運動負荷に加え、複数の要因が発症に影響する。問診時に、表中の要因についても確認する。

図11-1 原因食物と発症時の運動

原因食物は、小麦と甲殻類が多いが、果物や野菜の報告例が増加している。発症時の運動種目は、球技やランニングなど運動負荷の大きい種目が多い。その一方で、散歩や入浴中の発症例もある。

図11-3 原因食物診断のフローチャート

詳細な問診や血液・皮膚検査結果より被疑食物を絞り込む。初回の誘発試験は「食物+運動負荷」で行い、その結果が陰性であった場合にアスピリンの前投薬を考慮する。それでも陰性であった場合は原因食物を見直す。誘発試験が陽性であった場合は、運動前の原因食物の摂取制限により、再発症のないことを確認する。

表11-2 生活指導

運動2時間前の原因食物の摂取禁止を指導する。原因食物の完全除去や過剰な運動制限など不適切な指導により、患児のQOLを損なわないよう、注意する。頻回発症例や重症例には、アドレナリン自己注射薬を携帯させることが望ましい。

第11-2章 口腔アレルギー症候群(OAS)

[ 要 旨 ]

  1. 1口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome, OAS)はIgE抗体を介した口腔粘膜に限局する即時型アレルギー症状である。本章では、花粉-食物アレルギー症候群(pollen-foodallergy syndrome, PFAS)に限定して記載する。
  2. 2主な原因食品は果物、生野菜や豆類である。原因アレルゲンとして花粉との交差抗原性を示すBet v 1ホモログやプロフィリンなどが知られている。
  3. 3診断は病歴、特に花粉症の合併および被疑食物の感作状況を参考に行う。補助診断としてprick-to-prick testが優れている。確定診断のために行う経口負荷試験では、新鮮な食品の舌下投与で行うことも考慮する。
  4. 4治療の基本は除去であるが、加熱などの加工処理によって摂取が可能となることが多い。
  5. 5花粉症に対する特異的免疫療法によるPFASに対する治療効果には、まだ議論の余地が残されている。
表11-3 主な花粉と交差反応性が証明されている果物・野菜など

これらの花粉に対してアレルギーを有する場合に、右に示す果物や野菜で口腔アレルギー症状を示しやすい。だたし、この組み合わせ以外でも症状を示す場合もある。

第11-3章 ラテックス-フルーツ症候群

[ 要 旨 ]

  1. 1ラテックス抗原と果物や野菜に含まれる抗原との交差反応性に起因し、ラテックスアレルギー患者の30~50%に発症する。リスクが高い食品としてアボカド、クリ、バナナ、キウイフルーツがある。
  2. 2診断は、詳細な問診、皮膚試験、特異的IgE抗体検査を参考とし、必要に応じて食物経口負荷試験で確定する。
表11-4 ラテックスと交差反応性を示しやすい食物

アボカド、クリ、バナナ、キウイフルーツは特に頻度が高く、ラテックスアレルギー患者が摂取する際には十分に注意する。

第12章 消化管アレルギーとその関連疾患

[ 要 旨 ]

  1. 12-1. 新生児・乳児消化管アレルギー
    1新生児から乳児期において主に牛乳が原因で嘔吐、血便、下痢などの消化器症状により発症する。主として非IgE依存性アレルギーである。
  2. 2本疾患概念はわが国独自のものであり、国際病名であるfood-protein induced enterocolitis syndrome(FPIES)、food-protein induced proctocolitis(FRIP)およびfood-protein induced enteropathy(FPE)を包括している。また、好酸球性消化管疾患の一つとして捉えられる場合もある。
  3. 3除去・負荷試験を中心に診断し、治療は原因食物の除去が基本である。一般に予後は良好である。
  4. 12-2. 好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders,EGIDs)
    1好酸球の消化管局所への異常な集積から好酸球性炎症が生じ、消化管組織が傷害され、機能不全を起こす疾患の総称である。その機序として、IgE依存性・非IgE依存性アレルギーが混在する場合がある。新生児・乳児消化管
    アレルギーにおいて病理学的に好酸球浸潤が認められ、EGIDsと診断される例がある。
  5. 2部位により好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis, EoE)、胃炎(eosinophilic gastritis, EG)、胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis, EGE)、大腸炎(eosinophilic colitis, EC)に大別される。
  6. 3診断には消化管粘膜生検での組織好酸球数増多の確認が必須である。EoEでは内視鏡所見が特徴的である。
  7. 4EoEが疑われてもプロトンポンプ阻害薬(PPI)に良好な反応を示す場合はproton-pump inhibitor-reponsive esophageal eosinophilia(PRI-REE)と診断される。
  8. 5治療は局所および全身性ステロイド療法と原因食物の除去が中心である。しばしば再燃する慢性疾患である。
表12-1 新生児・乳児非IgE依存性食物蛋白誘発胃腸症の特徴

新生児・乳児期に主として牛乳抗原により発症する消化器症状を主体とする非IgE依存性食物アレルギーであり、食物除去試験・経口負荷試験により診断される。アレルゲン特異的リンパ球刺激試験(allergen-specific lymphocyte stimulation test, ALST)陽性や好酸球浸潤は補助診断検査であり参考にすることができる。原因食物の除去により治療され、一般に予後は良い。

図12-2 好酸球性消化管疾患の診療の流れ

好酸球性消化管疾患(EGIDs)は好酸球性食道炎(EoE)と好酸球性胃腸炎(EGE)に大別され、診断には生検による消化管粘膜好酸球増多の確認が必須である。EoEを疑った場合、プロトンポンプ阻害薬(PPI)に対する反応が良好な場合はPPI-responsive esophageal eosinophilia、不良な場合はEoEと診断される。EGIDsの治療は局所・全身性ステロイド療法と原因食物の除去である。

第13章 患者の社会生活支援

[ 要 旨 ]

  1. 1食物アレルギーの診療にあたる医師は、食物アレルギーに関する社会的な対応を理解し、支援することが期待されている。
  2. 2学校・幼稚園、保育所生活において何らかの配慮 が必要な食物アレルギー児は、「学校生活管理指導表」、「保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表」を提出する。医師は記入のルールを熟知し、現場でのアレルギー対応に必要な情報を記入する。
  3. 3給食における対応は安全性の確保を最優先とする。このため、家庭で行う必要最小限の除去とは異なり、完全除去か解除かの二者択一による給食提供が推奨されている。
  4. 4万一、誤食が起きたときに速やかに対応できるように、学校・幼稚園、保育所関係者に対して指導を行う。
  5. 5アドレナリン自己注射薬を処方するときには相互禁忌薬剤に注意し、使用するタイミングと方法を十分に指導する。
図13-1 学校・幼稚園、保育所における 生活管理指導表の活用の流れ

入学・入園、進級、転入時および新規発症時に対象者を把握する。何らかの対応が必要な場合には生活管理指導表(図2、図3)を配布する。それを基に個人面談を行い、校長・園長を委員長としたアレルギー対応委員会を設立し、組織として対応する。

(公益財団法人日本学校保健会『学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン』より転載)

図13-2 学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)

2008年日本学校保健会作成の「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」、2015年文部科学省発刊の「学校給食における食物アレルギー対応指針」において、学校において食物アレルギー対応を求める場合には、学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)の提出が必須とされた。医師の正しい診断に基づいて、根拠を持ったアレルギー対応をとるための基本となるもので、学校での生活の質、安全性を左右する重要な書類である。

『保育所におけるアレルギー対応ガイドライン』より転載)

図13-3 保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表

2011年に厚生労働省から発刊された「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」に示されている。乳児期から保育園に入園する年齢では診断が確定していないこともあるため「診断根拠」ではなく「除去根拠」とされている。また、乳児ではまだ与えないような食品もあるため、「④未摂取」という選択肢も用意されている。

図13-4 一般向けエピペン®の適応

エピペン®を使用するタイミングを分かりやすく提示するために2013年日本小児アレルギー学会アナフィラキシー対応ワーキンググループにより作成された。患者・保護者への説明、保育所(園)・幼稚園・学校などのアレルギー・アナフィラキシーガイドライン・マニュアルはすべてこれに準拠することを基本とする。

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