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「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」解説

当学会倫理委員会では会員の皆様への周知を目的として、厚生労働省から公布された「人を対象とする医学研究に関する倫理指針」を簡潔にまとめた解説を作成いたしました。下記テーマごとの解説を倫理委員で分担し、毎月掲載して参ります。
論文発表や学会発表などの際に、お役立ていただければ幸甚に存じます。

遵守のお願いと解説

日本小児アレルギー学会倫理委員会
執筆者:大嶋勇成 2015.12掲載

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」遵守のお願い

 従来の「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」は平成27年3月31日廃止され、平成27年4月1日から「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」が施行されています。会員の皆様には、学会発表、学会誌へ発表される際には、この倫理指針を遵守していただくようお願い申し上げます。

厚生労働省ホームページ「研究に関する指針」

厚生労働科学研究に関する指針には、新しい倫理指針「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」以外にも複数の指針が示されています。
他の指針(ゲノム指針、遺伝子治療臨床研究指針、生殖補助医療研究指針など)の適応を受ける研究について、当該指針に規定されていない事項については、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の規定が適用されることになります。

新しい倫理指針での主な変更点

(1)研究機関の長及び研究責任者等の責務に関する規定(第2章関係)
研究責任者の責務の明確化
研究者への教育・研修の規定
(2)研究に関する登録・公表に関する規定(第3章関係)
介入を伴う研究の公開データベース(UMIN, JAPIC, JMACCT-CTR)への登録の必要性
(3)インフォームド・コンセント等に関する規定(第5章関係)
研究対象者に生じる負担・リスクに応じてのインフォームド・コンセントの手続き
未成年者等を研究対象者とした場合のインフォームド・アセントの必要性
(4)個人情報等に関する規定(第6章関係)
特定の個人を識別可能な死者の個人情報等の取り扱い。
研究の実施に伴い取得される個人情報等の取り扱い。
(5)利益相反の管理に関する規定(第8章関係)
研究責任者や研究者がとるべき措置の明確化
(6)研究に関する試料・情報等の保管に関する規定(第8章関係)
侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う介入研究に係る情報等の保管期間の義務
(7)モニタリング・監査に関する規定(第8章関係)
侵襲(軽微な侵襲を除く。)を伴う介入研究でのモニタリング・監査の必要性

新しい倫理指針が適応される研究(指針第2(1)、ガイダンス3-5頁)

 人(試料・情報を含む)を対象として、傷病の成因と病態の理解、傷病の予防方法、診断方法、治療方法の改善・検証を通じて、健康の保持増進、患者の傷病からの回復と生活の質の向上に資する知識を得ることを目的として実施される活動と定義されています。
傷病の予防、診断、治療を専ら目的とする医療、学校保健安全法による保健調査、専ら教育目的で実施される保健衛生実習等は該当しません。
新指針の対象となる研究は、その実施にあたり原則、倫理審査を受け承認を得る必要があります。

新しい倫理指針の「適応外」となる研究(指針第2(1)、ガイダンス3-5頁)

  • 法令の規定に基づき実施される研究
  • 法令(GCP、薬事法など)に基づく基準の適用範囲に含まれる研究
  • 以下の試料又は情報のみを用いる研究
    ①既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用されており、かつ、一般に入手可能な試料・情報
    ②既に連結不可能匿名化されている情報

    補足:
    ①:商業ベースで販売されているヒト(由来)細胞のみを用いる研究などは、指針では既に学術的な価値が定まり、研究用として広く利用され、一般に入手可能な試料とみなすことができるため「指針の適応外」となり、倫理審査委員会に諮る必要はありません。

    ②:研究開始前から存在する既存資料で個人情報と未来永劫結びつかない資料のみを用いる研究は新指針の適応外となり、倫理審査委員会に諮る必要はありません。また、誰の資料かを遡ることができないので、使用に際し被験者からの同意も不要です。
    なお、「個人情報と結びついた資料を、研究のために連結不可能匿名化する作業」は、「既に連結匿名化されている」とはみなされず、匿名化の作業を行う時点から研究に着手していることになり、匿名化の段階で研究者が個人情報に触れることになるため、「指針の適応外」にはなりません。例えば、既存のある特定の疾患患者の診療録からデーターを抽出し、疾患の発症リスクや治療法の違いによる影響を解析することは「指針の適応外」にはならず、倫理審査委員会に諮る必要があります。
     

倫理審査委員会の審査の取り扱い

以下の研究の審査は、倫理審査委員会が指名する委員による迅速審査での対応が可能です。
それ以外は、一般審査の対象となります。

  • 他の研究機関との共同研究であって、研究の全体について既に倫理審査委員会の審査を受け、実施が承認されている場合
  • 研究計画書の軽微な変更
  • 侵襲を伴わず介入を行わない研究
  • 軽微な侵襲を伴う研究であって、介入を行わないもの

インフォームド・コンセントの手続き

1.新たに試料・情報と取得する場合の手続き
研究対象者のリスク・負担 IC等の手続き 研究の例
侵襲の有無 介入の有無 試料・情報の種類
侵襲を伴う 文書によるIC ・医薬品等を用いる研究
・終日行動規制を伴う研究
採血を行う研究
侵襲を伴わない 介入を行う 文書によるIC
または
口頭IC+記録作成
・食品を用いる研究
・うがいの効果の有無の検証等生活習慣に係る研究
・日常生活レベルの運動負荷をかける研究
介入を行わない 人体から取得された試料 ・唾液の解析研究
人体から取得された試料以外 文書によるIC
または
口頭IC+記録作成
または
オプトアウト
・匿名のアンケートやインタビュー調査
診療録のみを用いる研究

(南川 統合指針に基づく臨床研究の実践について:第51回医学系大学倫理委員会連絡会議抄録集)

2.既存試料・情報を利用する場合の手続き
既存試料・情報の種類 他機関へ提供
(提供する側)
他機関から取得
(提供される側)
自機関で利用
匿名化されていない 人体から取得された試料 ・文書ICによらない場合は口頭IC
・文書IC・口頭ICが困難な場合はオプトアウト
*いずれも困難な場合の例外あり
・文書IC・口頭ICによらない場合はオプトアウト
*提供する側のICまたはオプトアウトの手続きが行われていることの確認が必要
・文書ICによらない場合は口頭IC
・文書IC・口頭ICが困難な場合はオプトアウト
*いづれも困難な場合の例外あり
人体から取得された試料以外 ・文書IC・口頭ICによらない場合はオプトアウト
既に匿名化されている 手続き不要

(南川 統合指針に基づく臨床研究の実践について:第51回医学系大学倫理委員会連絡会議抄録集)

補足:オプトアウト
あらかじめ研究に関する情報を通知・公開し研究対象者等が拒否できる機会を保障する方法。

3.将来の研究利用に関するICの手続き

同意を受ける時点で特定されない将来の研究への試料・情報の利用が見込まれる場合
○同意を受ける時点で想定される内容を可能な限り説明
白紙委任は不可
○特に、以下の事項は、可能な限り具体的な説明が必要

  • 利用する研究者・研究機関
  • 試料・情報の利用目的
  • 研究の方法・期間

将来の研究利用に関する同意を受けた後の対応
新たに特定された利用目的等についての情報を、研究対象者等に通知または公開し、研究が実施されることについて撤回できる機会を保障する

研究に伴う健康被害への補償(指針第5・1(3)、ガイダンス32頁)

人を対象とする医学研究を行うにあたっては、世界医師会が制定する「ヘルシンキ宣言」(人間を対象とする医学研究の倫理的原則)に従うことが求められます。
「ヘルシンキ宣言」2013年改訂では、第15項に「研究参加の結果として損害を受けた被験者に対する適切な補償と治療が保証されなければならない。」と明記されています。

対象 侵襲(軽微な侵襲を除く)を伴う研究のうち通常の診療を超える医療行為を伴うもの その他の侵襲を伴う研究 侵襲を伴わない研究
研究責任者 必要な補償措置を講じ研究計画書に記載 補償の有無(有る場合はその内容)を研究計画書に記載 規定なし
研究機関の長 必要な措置を確保
研究者等 規定なし
通常の医療を超える医療行為とは(指針ガイダンス9頁)

①医薬品医療機器等法に基づく承認等を受けていない医薬品(体外診断用医薬品を含む。)又は医療機器(未承認医薬品・医療機器)の使用
②既承認医薬品・医療機器の承認等の範囲(効能・効果、用法・用量等)を超える使用
③その他新規の医療技術による医療行為

 既に医療保険の適用となっているなど、医学的な妥当性が認められて一般に広く行われている場合には、「通常の診療を超える医療行為」に含まれないと判断され、補償措置が必ずしも必要とはなりません。
その一方で、既承認医薬品を承認範囲内で使用した場合に発生した副作用については、適正に使用されていれば医薬品副作用被害救済制度の給付対象となり得るものであるため、既に補償の措置が講じられているといえますが、同給付制度で対象外と判断されることも考慮し補償措置を講じる対応も考えられます。

テーマ

 

侵襲、軽微な侵襲の範囲 (執筆者:縣 裕篤 2016.1掲載)
介入の意味(執筆者:池田 政憲 2016.3掲載)
臨床研究保険(執筆者:髙橋豊 2016.4掲載)
モニタリング・監査(執筆者:松原知代 2016.5掲載)New!

 

 

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