第9章 治療

[ 要 旨 ]

  1. 1本ガイドラインでは、経口免疫療法(oral immunotherapy)を食物アレルギーの一般診療として推奨しない。
  2. 2経口免疫療法とは「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の食物経口負荷試験で
      症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、
      究極的には耐性獲得を目指す治療法」とする。
  3. 3食物アレルギー診療を熟知した専門医(日常的に食物経口負荷試験を実施し、症状誘発時の対応が十分に行える
      医師)が、症状出現時の救急対応に万全を期した上で、臨床研究として慎重に施行すべきである。
  4. 4治療の過程で即時型症状を多くの症例に認め、予期せずにアナフィラキシーを含む重篤な症状を誘発することが
      ある。
  5. 5脱感作状態とは原因食物を摂取し続けていれば症状が現れない状態をいう。しかし、患者の一部では治療を
      中断すると症状誘発閾値が元に戻ることや摂取後の運動により症状が誘発されることがある。
表9-1 経口免疫療法の問題点

米国や欧州のガイドラインにおいても経口免疫療法を一般診療として推奨していない。わが国では2015年の調査では約8000人に経口免疫療法が実施されているが、その一部には倫理委員会での承認を受けずに実施している施設や安全対策の不備が見受けられる。

表9-2 経口免疫療法実施施設に 求められる条件

経口免疫療法は治療中の症状誘発リスクが高く保険適用もないため、倫理委員会での承認および十分な安全対策を取り実施すべきである。

表9-3 経口免疫療法による免疫学的応答

経口免疫療法では表に示すような免疫学的応答が起こり、治療効果に関連すると報告されている。経口免疫療法で得られる脱感作状態は、自然経過による耐性獲得とは異なると考えるのが妥当である。

表9-4 経口免疫療法の対象者の選択基準と禁忌

経口免疫療法は、完全除去継続と比較して、アドレナリン筋肉注射やステロイド薬投与を要する誘発症状のリスクが高く患者への負担は大きい。このため経口免疫療法は効果とリスクのバランスを吟味して、十分なインフォームドコンセントのもとに実施すべきである。

表9-5 臨床研究に基づく治療効果のまとめ

*1:摂取1回当たり、*2:総症例数当たり

経口免疫療法により多くの患者は症状誘発閾値の上昇あるいは脱感作状態に到達できる。しかし、治療経過中に多くの症例に誘発症状が認められる。好酸球性食道炎・腸炎などの非即時の副反応も報告されている。

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